骨董のちょっとステキなお話
3「飛び出すメガネ! ~シルバーのロニエット~」
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(図1)アールヌーボーのロケット
ロニエット シルバー
たて7×2.5cm
フランス1838 ~ 1962 の刻印
(片面がアールデコへと向かうイメージだから、 第一次世界大戦ころの1910 ~ 1920 前後かも)
ロケットペンダントみたいだけれど(図1)、横の小さなツマミを動かすと、ほら!
スプリングで折りたたんだメガネが飛び出します! ( 図2、3)

ロニエット(折りたたみ式メガネ)は、手鏡のように持ち手がついているものや、長方形のものが多いので、慣れるとすぐわかります。
でもこれは横から見ないとロニエットだとわかりません。さらに、アンティークジュエリーにはよくあるのですが、表と裏でデザインがちがっていて、2通りに使えます。

どちらもシルバーに花と葉の模様だけれど、くらべてみてください!

図1は19 世紀末に流行したアールヌーボーのデザインで、流れる線で花も葉もリアルに彫られています。模様にそってかすかな凹凸や透かしがあるので、とても立体的です。
反対に、図4は同じ模様をごくシンプルなデザインで彫ってあります。平らな面の模様を、右とちがってまっすぐで広めな線で区切っているので、20 世紀の幾何学的なアールデコへと向かっていく感じです。

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図2 ツマミを動かすと中から…
つくも神がいるなら、2巻の柿右衛門の壺に宿った双魂の精霊みたいに正反対な2人でしょうか?

でもこれはひとつの器物にふたつの面があるのだから、つくも神がくるっとターンするごとに、その姿が変わるというのはどうでしょうか?

実は私の中では、アールヌーボーはユイマール、アールデコはシャナイアのイメージなのです!

これをつける時は、どちらを見せるかで着る服がちがいます。
図1はシルバーだから綿や麻のカジュアルな服はもちろん、模様と細工がシックだから、シルク、レース、ビロードを使ったお姫さまっぽいお洋服にもびったりです。
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図3 メガネが飛び出した!
図4は革ジャンにジーンズみたいなボーイッシュな格好でも、ビジネス 向けのかっちりしたスーツにも合います。くっきりした色と素材のシンプルなデザインの服にさりげなくつけると、とてもかっこいいです。第一次世界大戦以降、多くの女性が働いて自分のお金でジュエリーを買うようになりました。
アールデコはそんな女性たちが好んだデザインなのです。

このロニエットを銀座のトイダというお店で最初に見つけたのは、私ではなくお友達でした。二人で話し合った覚えはないのですが、先に見つけた方に優先権があって、その人があきらめたら、もう一人が買っていいということにしています。
アンティークは、同じものはないからです。
もしその間に他の人に買われてしまったら、縁がなかったと思うことにしています。
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図4 裏はアールデコです
私と友達は年も背の高さもほぼ同じですが、顔の形や服の好みがすこし違っています。

私は葉のモチーフが好き、友達は花のモチーフが好き、そして二人とも細かい彫りが大好きです。

このロニエットは、ふたりの好きなポイントが重なる品でした。
お互いつけてみて、より似合っている方にゆずることも多いのですが、これは同じくらい似合いました。

友達は来週末もう一回見に行って、検討しているもう一つと同じ日に見て決めると言いました。 

月曜の夕方、思い切って友達に電話したら、「ロニエット、取り置きになってお店になかったよ。だからもう一つの方に決めちゃった!」と言われました。
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図5 細かな透かし彫りがわかる?
私が思わずため息をつくと、友達はこう言って背中を押してくれました。

「でも完全に売れたわけではないから、連絡してみなよ!」

そこでトイダに電話したら、なんと、今日の昼に取り置きがとりやめになったというのです。

これは私に縁があったのだなと思って買うことにしました。

今でもこれをつけると、友達は喜んでくれます。

気に入ったものをすべて買うことはできません。 でも友達のものになったら、それをまた見ることができるのでラッキーです。
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図6 同じ模様なのにちがうよね~
あと、決心したら即電話かメールをした方がいいそうです。

何年も売れ残っていたお品でも、買おうとお店に行ったら、ついさっき売れました! ということは、珍しくないそうです。

つくも神が念 を送ったのかしら?
なんて、想像してしまいますね~。


シルバーのロニエット
ギャラリートイダ 銀座 (阪急うめだ本店にもショップあり)
http://www.gallery-toida.com/
「けいこ@本大好き」 さん
FUGAのファンであり、本とおいしいものとアンティークジェリーをこよなく愛する図書館員。